生命科学部
生物有機化学研究室

教授 伊藤 久央 Hisanaka Ito

生命科学部
生物有機化学研究室

教授 伊藤 久央 Hisanaka Ito

有機化学で東薬発の薬を創る

伊藤先生が担当されている研究と役割、またその目的について教えてください。

私たちは有機合成化学が専門です。
まず、生物系の先生が病気のもとになるたんぱく質を見つける。そのたんぱく質に対して阻害作用を示す有機化合物をスクリーニングという手法で見つけてくる。見つけてはくるのですが、あくまでそれは既知化合物であって、まだ活性がそれほど高くないとか色々あるんですね。
見つけてきたその「ヒット化合物」を、「最適化」と言って、より活性を強め、安全性を高め、さらに特許性を持たせるような新規格にして行く、というのが私たちの役目です。


_それが薬を開発していく、ということなんですね。

具体的には、どのような薬を開発しているのですか?

今、一番力を入れているプロジェクトは、Pin1というたんぱく質の阻害剤の開発で、広島大学の医学部の先生と、東大の創薬機構の先生と三者で共同研究しています。

_Pin1??

「プロリン異性化酵素」って言うんですけど(笑)

_それはどういった…(笑)

最初の特許は、潰瘍性大腸炎をターゲットにしたもの。その次が、NASHと言うのですが、非アルコール性脂肪肝をターゲットにした薬でした。

_アルコールが原因ではないのに、脂肪肝になってしまうという?

はい。まだその他にもPin1が関与する病気があるので、私たちが東京薬科大学で開発した化合物が他にどのような病気に効くか、広島大学でモデルマウスを使って研究しています。

_その研究が実際に薬になって行くんですね。

大学で出来るのはここまでなんですね。その後は、製薬会社が関わってくるので、色々交渉をしている段階です。

伊藤 久央 教授
この研究を始めるきっかけとなったのは、どのようなことだったのですか?

今から7年ほど前、私が代表として応募した文部科学省の「創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業」に採択されまして、薬の開発を目指している他大学の、主に医学部の先生と組んで大学発の薬の開発をしようという事業に参画したのがきっかけです。
それまで私は医薬品の開発というのは全くやっていなかったんです。有機合成化学の中でももっと理学的な研究、反応開発、触媒開発、天然物合成のような。

_そうなんですか? では、その文部科学省の事業に採択されたことをキッカケに…

医薬品の開発にも手を出した、と(笑)

_将来成し遂げたい展望は…

それはもう!(笑)、東薬発の医薬品を出すことです。

伊藤 久央 教授

挫折も力にするプラス思考

薬学部を選ばれたのはどうしてだったのでしょう?

高校の頃、有機化学と植物に興味があったんですね。両方学べるのが薬学部で。

_有機化学と植物、結びつかないような…

植物は色々な有機化合物を作っていて、それが色々な医薬品になったりするんです。だから実際には非常に深い繋がりがあるんですね。
それに、薬学部へ行けば薬剤師の免許も取れる(笑)。

_どのような学生でしたか?
大学院時代は、もう朝から晩までずっと実験でした。朝9時半から3時頃まで…だから家に帰って寝るのが5時間くらい。

伊藤 久央 教授

_…夜中の3時ですか!(笑)。

大学生の頃はオーケストラでホルンを吹いていたんですが、結局挫折もあって…(笑)。そういうのが全部、研究に跳ね返ったんじゃないかと。英語も苦手で頑張ったけどできない、柔道もやってちょっとした挫折をした、でも研究なら一生懸命がんばれば何でも出来る。もう研究が楽しくて、楽しくて。

_挫折は大事ですよね。

めげてちゃいけない(笑)。プラス思考です。
そのオーケストラでの挫折も、留学時代に音楽繋がりで良い友達関係を築くきっかけになりましたし、それまでの挫折が外国でコミュニケーションを取るのに色々と役に立っているんですよね。

_研究でお忙しい毎日だと思いますが、お休みの日はどのように過ごされているんですか?

趣味が山登りなので…、最近、ちょっと忙しくてあまり登れていないんですが。最初に登ったのは30歳の頃、奥穂高でした。

_いきなり奥穂高ですか! それはハードルが高い…

甲信越の山々はかなり登りました。景色がいいとね、素晴らしいですよ。もっぱら北アルプス、南アルプスが多いですね。テント背負って、数日かけて縦走して。

_たくさんの植物、澄んだ空気、山頂からの景色…。素晴らしい一生の趣味ですね!

伊藤 久央 教授

ひらめきとセンスを実現させるための努力

_先生は、東京薬科大学の薬学部を卒業されて、大学院に進学して博士号を取られているんですよね。

はい。博士号を取った後、厳しいことで有名な(笑)、相模中央化学研究所に2年間勤めました。

_修行に行ってこい! と(笑)。

いや、自ら(笑)。まあ、そういう中で交友関係も広がるので。
その後、「戻ってこい」ということで(笑)、薬学部の助手として母校に戻ってきました。スタンフォード大学に留学したのは、それから3年ほど勤めてからです。

_留学時代はいかがでしたか?

いやもう、天国でした(笑)。
スタンフォード大学では、新しい触媒の開発を行いました。ノーベル賞候補の先生の所でイチから新しいプロジェクトを僕が立ち上げたんですが、それが上手く行って、今もすごく大きなプロジェクトとして10何年続いています。それは誇りですね。
「触媒」というのは、有機反応を促進させる機能を持った有機化合物ですが、「薬」も同じなんですよね。医薬品は身体の中で機能を示す有機化合物なので、触媒と通じるところがある。化合物のデザインというところは、触媒も医薬品も同じなんです。それで、医薬品の開発というのも楽しそうだと、文部科学省のプロジェクトへの応募に繋がって行きました。

_これまでの様々なことが転機になって、結果、繋がっているんですね。

ずっと転機ばっかりですが(笑)。

伊藤 久央 教授

_ちなみに、研究で辛いこともあるのではないかと思うのですが…

辛いことっていうのはないかな。研究自体はとても楽しいので(笑)。

_ないんですね! 壁に当たったりとか…

壁は毎回(笑)。

_一貫した哲学というか、ポリシーはありますか?
ひらめきとセンス。
頭が良い人はたくさんいます。でも頭が良ければ研究ができるということでもない。やはりひらめきとセンスを大切にして行くと、チャンスはいたる所にあるのかな、と。

_ひらめきとセンスを磨く方法は何でしょう?

…寝る直前とかα波が出そうな時に研究のことをぼーっと考える(笑)。さらに、ひらめきとセンスを実現させるための努力が大事です。そうすれば誰にでもチャンスは来ると思います。

伊藤 久央 教授
東京薬科大学を目指す高校生へのメッセージ

何か新しいものを開発する、想像して創造する…学問として、全くないところから新しい物質を作り上げていくというのは、非常にチャレンジングで楽しいことです。
その目指すところの一つ、大きな目標の一つが医薬品の開発です。医薬品の開発自体は生命科学分野の広い研究内容による協働作業が必要ですが、その中で自分が作った化合物が薬になる、それができるのはやはり有機合成化学という学問なのです。